成瀬は天下を取りにいく
主人公・成瀬あかりは、一言でまとめると“妙に真っ直ぐで、妙に強くて、妙に面白い”。そして一番大きいのは、彼女が“普通じゃないことを普通にやる”ところ。例えばクラスで浮くような行動をあえて選んだり、誰もやらないことを淡々と続けたり、無駄とか意味がないとか言われても全く気にせずやる。
普通なら「どう見られるか」を一番気にしてしまうところを、成瀬はめちゃくちゃ投げ捨ててる。この姿に、読んでる側は最初ちょっとびっくりするし、次第に気持ちよくなってくる。
この小説って、成瀬が何か派手な成長を遂げる物語ってわけじゃないんよな。どちらかというと、周りが勝手に成瀬に影響されていく話。
成瀬自身は相変わらずで、むしろブレなさすぎてパワー系。でもそのブレなさに触れた人たちが、ちょっとずつ考え方を変えたり、自分の人生を見直したりする。主人公が周りを変える系なんやけど、説教臭くないし押し付けがないからめちゃくちゃ読みやすい。
で、一番面白いのは“成瀬って別に特別な才能がある子じゃない”ってところ。勉強が飛び抜けてできるわけでもなく、運動部で全国いくわけでもなく、金と人脈があるわけでもなく、権力や影響力なんか当然ない。それでも彼女は天下をとりに行く。じゃあどうやって?ってなると、その答えは思ったよりシンプルで“やると決めたことをやる”だけ。周囲の空気じゃなくて自分の基準で動ける人っていうのは、現代ではそれだけで超強キャラになる。
この作品が刺さる理由って、たぶん多くの読者が「ほんとは自分もこうしたかった」と思う部分を成瀬が代わりにやってくれるからやと思う。
例えば「本当は言いたいことがあった」「本当は参加したかった」「本当は反対したかった」「本当は目立ちたかった」みたいなやつ。現実では空気を読むことで生きていくけど、成瀬は空気を読まないまま突き進む。その爽快さは半端ない。
あと、この小説の構造も面白くて、成瀬の物語が彼女自身の視点じゃなく、周りの人から語られる形式になっている。これがめっちゃ効いてて、成瀬の“ナゾ感”と“影響力”がより立体的に浮き上がるんよな。本人の内心はあまり語られず、行動だけが示される。そしてその行動の意味やインパクトは、見た人間が勝手に受け取り、勝手に考え、勝手に変わっていく。これって実際の人間関係でも起きることで、実はめちゃくちゃリアル。
エピソード単位で見ても、どれも小さくてくだらんように見えるけど、ちゃんと芯がある“生き方の話”。
文化祭とか、恋愛とか、部活とか、コンテストとか、すべてがテーマとしては小さいし、何ならよくある題材。でもそこに成瀬を放り込むことで全部のイベントが“人生の問い”みたいになっていく。結果として「人はどうやって自分を選ぶのか」みたいな話が自然と浮かび上がってくる。
読んでいて思ったのは、この作品が青春小説のふりをした“生き方論”ってこと。しかも説教しないタイプのやつ。青春ものって大体、恋か友情か努力でまとめちゃうことが多いけど、『成瀬は天下をとりに行く』はちょっと違う。もっと社会的で、もっと現代的で、もっとメンタルヘルス寄りで、もっと働き方に近くて、もっと承認欲求に近い。でもそれを真正面から扱わずに全部ズラしてくる。だからこそ読んでて気持ち良いし、人によって刺さる箇所が変わる。
そしてタイトルの“天下”の意味が、読み進めるほどに変わっていくのが最高に良い。途中までは「ただの言い回し」「ただの大袈裟」「ただのギャグ」として読めるんやけど、終盤に行くと“天下=自分の人生の主導権”という意味に変わってくる。つまり支配や征服ではなく、選択の話になる。これに気づいた時に初めてタイトルの重みと面白さが理解できるようになってて、構造的にも綺麗やった。
総じて言うなら、この小説は自分の人生を手に入れる方法について書いた作品で、それを高校生視点で描くことで読者にも間に合う感を与えてくれる。大人が読んでも刺さるし、学生が読めばなお刺さる。しかも難しくないし、変に文学ぶってないし、軽く笑えるし、人物が全員ちゃんと立ってる。
この小説は刺さる人には刺さる、刺さらない人には全く刺さらないかもって思った。
よくある伏線回収や、派手な展開、ファンタジーな展開は全くない。成瀬の行動を観察しているだけのような内容。でも、そんな現実的だからこそこんな風に生きればよかったなんて、自分に重ねてしまうのかもしれない。
この小説にはまだ続編がある。でも全部読まないと成瀬のすべては理解できないんだろうな。まだまプロローグといったところか。