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映画『空白』

映画『空白』

 

 2021年、吉田恵輔監督作品。この映画を観た後、しばらく呆然としてしまった。感情がぐちゃぐちゃにかき乱され、放心状態になった。何とも言えない、消化不良のような、でも確実に何かを突きつけられたような気持ち。この映画には、ただ「面白かっ た」「感動した」では片付けられない重さと鋭さがある。

 

 人はなぜこんなにも不器用なのか。なぜ、傷つけたくない相手を傷つけてしまうのか。そして、「正しさ」とは一体何なのか。そんなことを考えさせられながら、胸の奥にズシンと響く映画だった。この記事では、映画『空白』の感想を、ストーリーの展開、キャラクターの魅力、演出の巧みさを交えながら、じっくりと語っていきたい。


 ■ 物語の展開――説明されない「空白」
 物語の発端は、スーパーでの万引き未遂事件だ。中学生の花音伊東蒼)は、スーパーの店長青柳直人松坂桃李)に呼び止められるが、そのまま逃げ出し、道路に飛び出してしまう。そして、一台の車に轢かれ、命を落とす。運転していたのは、教師の青柳松岡茉優)。彼女は突然「加害者」になってしまう。

 

 花音の父・添田古田新太)は、娘の死を受け入れられず、周囲に激しく怒りをぶつけていく。スーパーの店長、青柳、学校の教師、そしてマスコミ。彼の怒りは、やがて暴力へと変わり、彼自身をも追い詰めていく。

 

 この映画の大きな特徴は、「なぜ?」という疑問に対する明確な答えが示されないことだ。

 

 花音は本当に万引きをしようとしたのか?
 

 彼女はなぜ逃げたのか?

 

 父親の添田と花音の関係は、どうだったのか?

 

 どれもはっきりとは語られない。「空白」とは、まさにこの映画の中にある無数の「説明されないもの」のことなのかもしれない。人はいつも、「理解できる理由」がないと納得できない。しかし、人生には、説明できないことのほうが圧倒的に多いのだ。その残酷な現実を、この映画は真正面から描いている。


 ■ 添田の怒り――「怖い父親」の奥にあるもの
添田を演じる古田新太の存在感は圧巻だ。彼が演じるのは、典型的な「怖い父親」。娘に対して威圧的で、感情を抑えられず、怒りのままに行動する男だ。しかし、彼の怒りは決して「単なる暴力」ではない。

 

 彼の怒りの裏には、娘を理解できなかったという後悔、父親としての無力感、そして何よりも「愛」があるのだと思う。ただ、その愛の伝え方が極端に不器用だった。それゆえに、娘との間に埋められない「空白」が生まれ、それが彼自身を苦しめている。

古田新太の演技には、そんな男のどうしようもない悲しみが滲んでいる。怒鳴り散らし、暴力を振るい、社会に牙を剥く。しかし、彼が本当に求めていたのは、「娘の本当の気持ち」だったのではないかと思う。


 ■ 青柳の葛藤――善意の加害者
 事故を起こしてしまった青柳(松岡茉優)もまた、非常に難しい立場に置かれる。彼女は悪意を持って花音を轢いたわけではない。ただ、そこに居合わせただけだ。しかし、世間はそんな事情を考慮しない。

 

 「事故」「殺人」はまったく違う。しかし、遺族にとっては、どちらも愛する人を奪われた」ことに変わりはない。青柳は、被害者の家族からも、マスコミからも、世間の目からも責められる。彼女は、自分のせいではないと思いながらも、どこかで「自分が悪いのかもしれない」という罪悪感を抱いてしまう。

 

 松岡茉優の演技は、まるでドキュメンタリーを見ているようなリアリティがあった。自分を責めながら、何とか日常を保とうとする。しかし、世間はそれを許さない。その苦しさが痛いほど伝わってくる。


 ■ 世間の「正義」とその残酷さ
 この映画には、「正義」というテーマも強く描かれている。

 

スーパーの店長 → ルールを守った結果、少女が死んでしまった。
マスコミの記者 → 「真実を伝える」と言いながら、視聴率のために報道を利用する。
SNSの声 → 無責任な正義感で、青柳や添田を攻撃する。

 誰もが「正しいこと」をしているつもりなのに、それが誰かを深く傷つけている。この構造が、あまりにもリアルで、観ていて胸が締めつけられる。


 ■ 赦しの難しさ――結末に込められたもの
 この映画には、「わかりやすい感動」はない。最後に誰かが劇的に改心するわけでも、感動的な和解があるわけでもない。ただ、「時間だけが過ぎる」。

 

 添田と青柳は、最後に直接対面する。しかし、そこには明確な謝罪も、和解もない。ただ、二人が同じ空間にいる。それだけだ。しかし、それがこの映画のメッセージなのだと思う。

 

 人は、簡単に他人を赦せない。しかし、赦さないままでも、生きていかなければならない。その「宙ぶらりんの感情」こそが、この映画の核心なのではないか。


 ■ 『空白』が問いかけるもの
 映画『空白』は、観る者に強烈な問いを投げかける。

 

 もし自分が添田の立場だったら?
もし自分が青柳の立場だったら?
もし自分がスーパーの店長だったら?
 

 誰もが「被害者」になりうるし、「加害者」になりうる。そして、何かが起こったとき、私たちはどう行動するのか。その問いが、映画を観終わった後もずっと頭の中に残り続ける。

 

 『空白』は、決して「楽しい映画」ではない。しかし、この映画が描くのは、紛れもない現実だ。観終わった後に、何かを考えずにはいられない。それこそが、この映画の持つ本当の力なのだと思う。

 

 まとめ

 この映画はものすごく現実的で、すべてがノンフィクションではないだろうかと思うくらい生々しかった。もしかしたら自分が被害者、もしくは加害者になる神しれない。どちらになったとしてももう二度と今までの日常は戻らない。

 

 ニュースでの事故報道。その裏にはこの作品のような状況に置かれている人が必ず

たくさんいるということだ。ぜひ一度皆さんにもこの作品を見て何かを感じてほしい。

 

ストーリー     ★★★★★

(かなり重い。心がつぶされる)

    キャラクター   ★★★★★

(実力は俳優揃いで見ごたえがある)

  重い度     ★★★★☆

(自分が同じ立場だったと思うと辛すぎる)

    おすすめ度   ★★★★☆

(楽しく見るものじゃないけど一度見てください)

    総評      ★★★★★

(出演者が好きな人だらけ)

 

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