映画『罪の声』静かな狂気と贖罪の物語
『罪の声』は、塩田武士の同名小説を原作とし、2020年に公開された社会派ミステリー映画です。昭和最大の未解決事件をモチーフにした本作は、ある音声テープをきっかけに、自分の知らなかった過去と対峙する男たちの姿を描いています。
主演は小栗旬と星野源。実力派俳優の共演が光るこの作品は、単なるサスペンスにとどまらず、日本の戦後史や社会構造、人間の罪と贖罪について深く考えさせられる映画でした。
圧巻のストーリー展開:過去の罪を紐解く旅
物語は、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)が、自宅に残されていた古いカセットテープを偶然発見することから始まります。そのテープには幼い頃の自分の声が録音されており、それが昭和の未解決事件「ギンガ・萬堂事件」に使われた脅迫テープの声と同じものだと知るのです。この衝撃的な事実をきっかけに、俊也は自分の家族の過去を探り始めます。一方、新聞記者の阿久津英士(小栗旬)もまた、事件の真相を追う取材の中で、曽根の存在に辿り着きます。
本作の面白い点は、単に「事件の真相を暴く」というサスペンス的な興奮だけでなく、「罪とは何か」「受け継がれるものとは何かという哲学的なテーマを真正面から扱っていることです。
曽根俊也にとって、事件はすでに過去のものであり、自分自身が関与したわけではない。けれども、事件に巻き込まれたことで、彼の人生には見えない「罪の影」がついて回る。これは果たして、彼自身が背負うべき「罪」なのか。それとも、彼はただの被害者なのか。この曖昧な問いが、観る者の胸に重くのしかかります。
阿久津の視点から見れば、事件は未解決であり、真実を突き止めることこそが社会的正義となる。しかし、取材を進めるうちに、単純な「善と悪」の対立構造では測れない、時代の闇や個々の事情が浮かび上がってくる。結果として、阿久津自身もまた、自分が追い求めていた「正義」とは何だったのかを問い直さざるを得なくなります。
この映画の最大の魅力のひとつが、小栗旬と星野源の演技の対比です。
小栗旬演じる阿久津英士は、事件を追う新聞記者という立場上、常に冷静でありながらも、その裏に熱い情熱を秘めています。彼は過去の事件の犠牲者や関係者にインタビューを重ねる中で、徐々に自分が関わっている「正義」というものの本質に疑問を持ち始める。この内面の葛藤を小栗旬は見事に演じきっていました。特に、事件の核心に迫った際の微妙な表情の変化は圧巻。真実に近づく興奮と、それによって誰かを傷つけるかもしれない恐れが入り混じった演技は、彼の中でもトップクラスの出来だったと思います。
一方、星野源演じる曽根俊也は、事件の被害者でありながら、同時に加害者の側面を持つ可能性がある人物です。彼の演技は、小栗旬とは対照的に、静かで、感情を押し殺したような雰囲気を持っています。自分の声が事件に使われたという事実を知ったときの動揺、その後の苦悩、そして最後に辿り着く「答え」。星野源は、普段の温和でユーモラスなイメージとは異なる、内に秘めた狂気すら感じさせる演技を披露しました。特に、ある真実を知ったときの涙をこらえるシーンは圧巻で、彼の演技力の高さを再認識させられました。
「罪」は誰のものなのか?— 観客に突きつけられる問い
映画『罪の声』は、単なるミステリーではなく、観客自身に問いを投げかける映画です。
・自分が関わったわけではない「過去の罪」を、どう受け止めるべきなのか?
・罪を犯した人間の子孫は、その罪を背負うべきなのか?
・事件を追うことは正義なのか、それとも別の誰かを傷つける行為なのか?
これらの問いは、日本社会における「罪と罰」、さらには「記憶と忘却」というテーマと深く結びついています。『罪の声』が描くのは、「事件の解決」ではなく、「事件のその後を生きる人々の物語」なのです。
また、本作では昭和の未解決事件が題材となっていますが、これを「現代の視点」から振り返ることで、社会の変化や歪みを改めて実感させられます。昭和の事件が持つ「アナログな狂気」と、現代社会の「デジタルな歪み」が交差することで、どこか不気味な余韻が残るのです。
まとめ:静かな衝撃と余韻が残る傑作
『罪の声』は、単なるミステリー映画の枠を超えた、深い人間ドラマを持つ作品でした。社会派ミステリーとしての緊張感と、人間ドラマとしての繊細な心理描写が見事に融合しており、観終わった後も長く余韻が残ります。
特に、
・小栗旬と星野源の演技
・「罪」と「贖罪」というテーマの掘り下げ
・現代社会にも通じる普遍的な問い
これらが見事に絡み合い、ただのエンターテインメントでは終わらない重厚な作品になっています。映画を見終えたあと、自分自身の中にも「罪の声」があるのではないか——そんな気持ちにさせられる、静かで強烈な映画でした。
ぜひ、多くの人に観てほしい一本です。
感想:この作品も本当に面白かった。曽根俊也(星野源)がじわじわと追い込まれる描写がなんともいえなかった。
ストーリー ★★★★★
(真相がじわじわ明かされる)
キャラクター ★★★★★
(星野源さんの演技すごかった)
泣ける度 ★☆☆☆☆
(涙もろいと少し泣ける?)
おすすめ度 ★★★★☆
(これもかなり重い)
総評 ★★★★☆
(古い作品ですがおすすめ)