映画『MOTHER マザー』狂気の母性と逃れられない運命
今回は大好きな映画のコンフィデンスマンシリーズの長澤まさみさんつながりということで、この映画を紹介します。
映画『MOTHER マザー』は、実際の事件をベースにしたフィクションでありながら、観る者に強烈な現実感を突きつける作品です。長澤まさみ演じる秋子という母親の存在は、母性という概念そのものを揺るがし、家族とは何か、人間とは何かを深く考えさせられる。観終わった後の虚脱感、怒り、悲しみ、そして無力感——そのすべてが、この映画の持つ「本物の重さ」だと言える。
■ 母性の歪み:秋子という"毒親"の恐怖
『MOTHER マザー』は、親子の絆を美しく描く作品ではない。それどころか、母親の存在が子どもにとってどれほどの影響を与えるのかを、恐ろしいほど赤裸々に見せつける映画だ。
長澤まさみ演じる秋子は、世間一般でいう「毒親」の典型例だ。働かず、男を渡り歩き、金がなくなれば息子の周平(奥平大兼)を使って金を無心する。その姿は、決して「母親」として理想的ではない。むしろ、観客の多くは「こんな母親は嫌だ」と心の底から思うだろう。
この映画の恐ろしいところは、秋子が「一方的な悪」ではない点にある。彼女はどこか魅力的で、子どもに対する愛情のようなものも垣間見える。それが純粋な愛なのか、ただの依存なのかは曖昧だ。秋子は、周平を支配しながらも、彼に甘え、彼と共依存の関係を築いていく。その結果、周平は母親を完全に拒絶することができない。
「母親だから」「育ててもらったから」という理由で、どんな仕打ちを受けても離れられない——それは、現実の虐待家庭にも見られる心理状態だ。この映画は、そんな 出口のない関係性の地獄 をリアルに描き出す。
■ 周平の悲劇:愛されることを知らない少年
周平は、秋子の影響を受けながらも、「普通の人生」を望んでいたはず。周囲から孤立しながらも希望を捨てずに生きている。
彼は母親に認められたいがために、彼女の言うことに従うしかない。母親のために人に頭を下げ、母親のために犯罪行為にも手を染める。そして最終的には、母親のために 取り返しのつかないこと をしてしまう。
周平が犯す罪は、決して彼自身の意思から生まれたものではない。彼は母親に支配され、自分で選択する力を奪われてきたのだ。そんな彼の運命を見ていると、「もし違う家庭に生まれていたら」「もし誰かが手を差し伸べていたら」と、何度も考えずにはいられない。
だが、現実には「もしも」は存在しない。彼の人生は、母親によって形作られ、母親によって壊されていく。
■ 社会の無関心と連鎖する悲劇
この映画がリアルなのは、「社会の無関心」がしっかり描かれている点にもある。
秋子のような親がいる家庭は、決してフィクションの世界だけの話ではない。しかし、学校や行政、周囲の大人たちは、そうした家庭の問題を深くは掘り下げようとしない。
周平の人生を救うチャンスは、いくらでもあったはずだ。
・教師がもう少し深く関わっていたら?
・近所の人が異変に気づいていたら?
・秋子がまともな人間関係を築いていたら?
だが、誰もが「家庭の問題」として放置することで、周平は逃げ場をなくしていく。こうした社会の無関心こそが、悲劇を生み出す要因の一つなのだと、この映画は突きつけてくる。
■ 長澤まさみの怪演:美しさと狂気の共存
長澤まさみの演技は、これまでのキャリアの中でも最高峰と言えるものだった。彼女は秋子というキャラクターを、単なる「悪い母親」として演じるのではなく、一人の「生身の人間」としてリアルに体現している。
秋子は、美しく、魅力的でありながら、自己中心的で破滅的な性格を持っている。その二面性を、長澤まさみは見事に表現しています。観客は彼女に対して 「なんてひどい母親なんだ!」 と思うと同時に、なぜか目が離せなくなる。これは、長澤まさみの持つ演技力が成せる技だと思います。。
彼女の笑顔の裏にある狂気、優しい言葉の裏にある支配、愛情のように見えるものの中に潜む恐怖——そのすべてが、観る者の心をざわつかせる。
■ まとめ:観る者を試す問題作
『MOTHER マザー』は、決して気軽に観られる映画ではない。
観た後に「面白かった!」とスッキリする映画でもない。
むしろ、「なぜこうなってしまったのか?」と ずっと考えさせられる映画 だ。
✔ 毒親の恐ろしさを知る映画
✔ 共依存の闇を突きつける映画
✔ 社会の無関心が生んだ悲劇を描く映画
この映画のラストを迎えたとき、多くの人は「救いのなさ」に打ちのめされるだろう。だが、それこそがこの映画の狙いなのだ。現実には、こんな家族が存在し、こんな悲劇が起こり得るのだと、観客に突きつける。
そして、ふと考えてしまう。
もし自分が周平の周りにいたら、何かできただろうか?
もし自分が彼の立場だったら、母親から逃れられただろうか?
この映画は、「あなたならどうする?」と問いかけてくる。
それが、ただのフィクションではないからこそ、重く、そして心に残り続けます。
映画『MOTHER マザー』は、人間の本質と社会の冷たさを鋭く描き出した衝撃作だ。観る覚悟があるなら、ぜひ一度、この映画と向き合ってみてほしい。
ストーリー ★★★☆☆(テーマが重すぎるので好き嫌い分かれるかも)
キャラクター ★★★★★(奥平大兼の演技がどの作品でも自然で大好き)
泣ける度 ★★★★☆(周平の救われようのなさが・・・)
おすすめ度 ★★★★★(テレビ番組でも取り上げられました)
総評 ★★★★★(ひたすら重い)